研究内容についても、緒言同様、学生さん向けに書きます。 当研究室は、「良いサイエンスから、良い薬を!」を合言葉に、生命現象を理解して、創薬に貢献することを目標としています。では、生命現象を理解するということは、どういうことでしょうか?ひとつの答えが、「生体分子の形や動きを目で見て納得すること」と言えるでしょう。  生体分子の形を知る研究領域が、構造生物学と呼ばれるものです。一方、生体分子の動きを知る領域は、バイオイメージングと呼ばれます。私たちは、核磁気共鳴法(NMR)を軸とした構造生物学に基づいて、生命現象を解き明かし、良い薬作りにつなげたいと考えています。

では、今進行しているプロジェクトについて説明します。

1. 白血球の動きを制御する因子に関するプロジェクト

東京大学大学院医学系研究科 分子予防医学講座
松島 綱治先生との共同研究

私たちの体は、免疫と呼ばれるシステムによって守られています。免疫システムの構築・維持には、ケモカインとよばれる60アミノ酸残基程度のタンパク質と、Gタンパク質共役受容体であるケモカイン受容体による白血球の遊走が必須であることが明らかになりました。しかし、ケモカイン受容体にどのようなタンパク質が結合し、シグナルを伝えているのかは、明らかになっていませんでした。

近年、松島先生の研究グループによって、ケモカイン受容体に結合してそのシグナルを制御する細胞内分子「フロント」が発見されました(Nature Immunology, 2005)。当研究室は、ケモカインの発見者である松島研究室と共同で、フロントによるケモカイン受容体認識機構を明らかにするとともに、フロントをターゲットとする新しい免疫性疾患治療薬開発の方向性をも開拓したいと考えています。

※松島研究室のホームページはこちら
http://www.prevent.m.u-tokyo.ac.jp/

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2. フェロモンプロジェクト

東京大学大学院新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻 分子認識化学分野
東原 和成先生との共同研究

人間の社会において、環境とは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感で認識される空間であると言えるでしょう。しかし、多くの生物には、子孫を残して種を保存するために、同種の異性を正確に認識する情報手段が、進化の過程で脱落せずに残されています。この第六の環境因子を「フェロモン」と呼びます。フェロモンを理解することは、生殖という生命活動の根源を理解することです。同時に、フェロモンを知り、制御する術を得たならば、ある特定の種の個体数をコントロールすることが出来ると思います。すなわち、様々な環境変化によって生じた生態系の乱れを、人為的に回復することが可能となります。

当研究室は、フェロモンという未知の領域の開拓に一貫して取り組んでいる東原研究室と共同で、フェロモンの謎に、構造生物学の方法を用いて迫りたいと考えています。

たまに学生さんに質問されます。「なぜ薬学部でフェロモンをやるのですか?」

2つ答えがあります。1つは「伝染病を防ぐには、病原体に対抗する薬をつくるのも大事ですが、衛生環境を維持することも同じくらい大事なことなのです。」詳しくは、研究室まで遊びにきてください。もう1つは、「薬学部でおもしろいことをやってもいいじゃない!」

※東原研究室のホームページはこちら
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/biological-chemistry/index.html

img_research2.gifまた、製薬企業との共同研究も行っています。研究室まで来ていただければ、お話しできる範囲で説明します。